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講談とは?落語との違いって?プロが教える講談入門

 


左から、旭堂南龍・旭堂南海・神田春陽(敬称略)

 

講談という演芸をご存じでしょうか?今、東京の講談師・神田松之丞さんが大人気ですね。独演会のチケットは、瞬時に売り切れだそうで。名前だけでも耳にされたことのある方は多いのではないでしょうか。

 

でも、講談といわれても、ピンとこないですよね。テレビに講談師が頻繁に出ているわけではありませんし、落語と違いとっつきにくく難しい印象を受けるかも知れません。

 

実は、それほど難しいものではありません。高座にかける読み物は、時代劇とさほど変わりなく、案外なじみがあるものばかりです。講談を高座にかける講談師も、いかついオッサンばかりでもありません。

 

もっと知って欲しい演芸、それが講談です。少しだけ、その世界をのぞいてみませんか?上方講談師である筆者が解説します。

 

力説したい!講談と落語は別物

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講談は落語と同じく座布団に座って行われる演芸です。パッと見て分かる講談と落語の違いは、講談師の前に「釈台」が置いてある点です。この釈台を張り扇や小拍子で叩き、話の流れにメリハリを付けます。

 

演目も違います。ざっくりとした表現を用いるなら、「落語はエピソード」「講談はストーリー」でしょうか。

 

落語だと登場人物は名もなき庶民がほとんどです。日常の一コマが落語に描かれています。バックグラウンドが不明な分、演者も観客も想像力の自由度が高い演芸です。

 

講談はというと、歴史物語が演目に多いです。登場人物も歴史上の人物です。がっつりバックグラウンドがある為、その分、登場人物に親近感を抱きやすいですね。日本史がグッと身近に感じられるようになるでしょう。

 

講談と落語の違いを羅列すると以下のようになります。

 

講談:釈台がある・ネタは歴史モノが多い・ベテランは先生と呼ぶ

落語:江戸は座布団のみ、上方は見台と膝隠しも使用・ネタは庶民の日常・ベテランは師匠と呼ぶ

 

☆ワンポイント☆

講談師に「落語と同じですか?」と尋ねると不機嫌になる

  

釈台こそ講談の原点

代替え文章 元は釈台の上に本を置いていました。昔は、本の音読と解説が講談だったのです。本を置いていた頃は、講釈と呼ばれていました。識字率が低かった時代は、とても喜ばれたそうです。耳学問として発展した演芸が、講談・講釈です。

 

しかし、明治期に田辺南窓(なんそう)という東京の若手講談師が本を置かずに講談を読み上げるスタイルを確立し、以後、それがスタンダードに。その頃から、講釈から講談と呼び方が変わっていったようです。一説には、巷の談話という意味で「巷談」が「講談」になったとも。

 

なぜ、本を置かないようになったかというと、落語の勢いが伸びてきたからなんですね。例えば、同じ演芸の落語は台本を全部覚えて高座にかけますので、真っ直ぐお客さんを見て演じられます。一方、本を置いて読みつつだと、どうしても上目遣いでお客さんを見てしまうので、落語と比べると印象が悪い。そこで、若手が謀反ならぬ「無本」を起こしたというワケで。

 

釈台を見る度に思い出してください。落語に負けないよう頑張った、当時の講談師の涙ぐましい努力を。そのお陰で、現代にも講談は残っているのです。

 

☆ワンポイント☆

講談のライバルは明治時代から落語

  

時代劇の元ネタは講談

代替え文章テレビドラマでお馴染みの『水戸黄門』や『大岡越前』、『遠山の金さん』は、全て講談が元です。講談で人気があった為、テレビドラマのテーマに採用されたのです。

 

例えば、史実では水戸黄門こと水戸光圀は全国を漫遊していません。ですが、それでは面白くありません。面白くないので、明治時代の講談師がこぞって面白く脚色した結果、お供の助さん角さんを連れて日本全国を旅するという設定ができあがりました。最終的には沖縄にまで行っています。

 

これ、単に面白いというだけでなく、講談師が地方巡業をするのに便利だったんです。ご当地モノはいつの時代もウケますからね。そういう経緯があり、水戸光圀は老体に鞭を打って日本列島を縦断するハメになったのです。

 

『遠山の金さん』も実在の人物ですが、実際の刺青は桜吹雪ではなく女性の生首。これだと気持ち悪いので、明治時代の講談師が改変。『大岡越前』のエピソードも史実通りのものもありますが、ネタ切れになりそうになると色んなところから引っ張ってきて物語を膨らませる。これも明治時代の講談師たちがしたことです。

 

今と違い明治時代から昭和初期は講談師がたくさんいましたので、競い合って面白い講談を生み出そうとしていました。講談師とは、現代でいう脚本家の役割も担っていたんです。その脚本という遺産を、現代の時代劇に活用しているのです。

 

☆ワンポイント☆

小説を含め時代モノのルーツはほぼ全部講談

  

コレを言うと通ぶれる

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落語だと演目を「ネタ」と呼びますが、講談では「読み物」といいます。これは釈台の上に本を置いて読んでいた名残です。実はコレ、演芸ファンでも、あまり知らないことです。

 

もう一つ、通ぶれることを。落語だとベテランや真打の噺家を「師匠」と呼びますが、講談は「先生」と呼びます。講談は元々耳学問として発展した演芸ですので、教師という意味で「先生」と呼ばれます。

 

☆ワンポイント☆

知らなくても講談は楽しめる

  

日本をもっと楽しめる演芸・講談

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日本語はとても美しい言葉です。七五調にのせると、その美しさは際立ちます。講談はこの七五調で物語を紡いでいく演芸です。聞いていて大変心地良く、改めて日本語の美しさを確認させてくれます。

 

また、歴史物が演目ですから、今いる土地の記憶が知れます。昔の人たちがどのような出来事を経験し、現代に至るのかが分かれば、自分の住む国がもっと好きになれるのではないでしょうか。

 

講談は約400年の歴史を持つ演芸です。私たちのご先祖様も同じ読み物で感心し、笑っていたと思うと、ちょっと楽しくなりませんか?講談師とは、現代に過去を届けるメッセンジャーなんです。

 

講談、面白いですよ。ぜひ一度、講談に触れてみてください。

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旭堂花鱗

コラムニスト/コンテンツライター

広島県安芸郡出身、大阪府高槻市在住。恋愛記事から豆知識、果てはビジネス文書まで幅広く執筆するライター。古典芸能に携わっていた経験もあり、日本文化について少し詳しい。文芸春秋『週刊文春』に載せてもらえたのが人生の自慢。

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