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【涙活】3分で泣ける実話ショートストーリー「母の日の朝ご飯」

焦げた鮭、崩れた豆腐の味はーー。(DOKUJO文庫編集部)

3分で泣ける実話ショートストーリー「母の日の朝ご飯」

娘達は二十四週で出産した六百グラムの超未熟児の双子。

生まれた瞬間から気持ちの休まる日はなかった。自力で呼吸が出来ない。

自然に弁が閉じず心臓の手術。未熟な目は失明の確率が高く目の手術。

小さな体を半分切ったと思う程大きな傷口や腫れあがった目を見て、辛いと思わない日はなかった。

小さく産んで苦しい思いをさせてしまってごめんなさいと自分を責める日々だった。

私に出来ることはただひたすら一時間かかる道のりを走って病院の子ども達に搾乳したおっぱいを届けることだけだった。

しかし、親の心配をよそに二人はたくましく成長していった。

小学校一年生の時の事。「お母さん、目が黒くって見えないよ。」

突然の娘の言葉に、体が凍りついた。

ずっと恐怖に思っていたことが遂に起こってしまった。

未熟児網膜症の毛細血管が眼底で破け出血を起こしたのだ。

すぐに手術が決まり自宅から一時間離れた大学病院に入院した。

発達障害を持つ娘は付添なしでの入院は厳しい。

痛い思いをするとパニックを起こし大騒ぎ。自分で点滴を抜き取ってしまう。

食事やお風呂の介助。術後、姿勢の保持をしなければならず、離れられないため車で寝泊まりしながら看病していた。

一方もう一人の娘は、学校から帰ると長時間で児童館の日々。

夜はパパと二人での食事。

姉の心配と私の居ない寂しさで日増しに元気がなくなり食欲が落ち、給食を食べないと心配して学校から連絡が入った。

心が痛かった。

パパと一緒にお見舞いに訪れた日の事。

待合室で束の間の家族団らんの時間を過ごした。

久しぶりに家族が全員揃い嬉しそうな娘達の笑顔。

しかし、パパと二人帰るエレベーターの中で息が出来ない程泣いた娘。

寂しいと決して口にせず、気持ちをぎゅうぎゅうに詰めてずっと必死に健気に抑えていた心の蓋を一気にぶち破って気持ちが溢れだしたのだった。

早朝PTA作業があり、役員をしていた私は病院から学校の仕事に向かった。

作業後すぐに病院にトンボ帰りしなければならなかった。

自宅に寄ると玄関先でもじもじして私を出迎えてくれた娘。

手を引いて娘が連れて行ってくれた先には、湯気が立つ朝食が並んでいた。

不揃いに切られたホウレン草のお浸しとちょっぴり焦げた鮭、崩れた豆腐が入った味噌汁とほかほかのご飯が用意されていた。

「母の日のプレゼントだよ。」

小学一年の娘が私を喜ばせようと一生懸命考え、初めて自分一人で作ってくれた朝ごはんのプレゼント。

病院では食欲がでず、この頃余りまともに食べていなかった。

味噌汁を飲み込むとじんわりと体に優しさが沁みてきて心が震える。

私の顔を覗き込むあなたの笑顔。私の感情を見逃すまいとキラキラ目が輝く。

家族がいるからご飯って美味しいんだね。

そんな当たり前のことを気づかせてくれた。

自分の寂しさよりも私を心配する娘の優しさ入りの朝食は、芯から気持ちを温めてくれた。

今では娘達はそれぞれ家庭を持ち、毎日台所に立っている。

あの͡娘たちにも、いつかそんな日がくるのだろうか。

忘れられない母の日の美味しい記憶。

作:安田直子(協力:あのころの味エッセイ大賞)

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